虐待を受けた子どもたち

子どもたちには育て直しや長期間の応援が必要です

子ども虐待とは、子どもが耐え難い苦痛や、為す術のない無力感を味わうことだと言えます。虐待を受けた子どもには、非常に低い自己評価が特徴的に顕れます。それは保護者から「おまえは何をしてもだめなのだ」「要らない子どもだ」というメッセージを有形無形に受け、自分を肯定できなくなるからです。

生まれてこなければよかった、生きていてもしかたないという思いが生まれ、誰にも愛されない、居場所がない、という不安定さを作り出します。そうした子どもには、深い悲しみと怒りが内在しています。

また、児童精神科医たちは、重い虐待を受けることで、愛着障害が起こると言っています。保護者からの愛情が断絶されたり、愛着を結ぶ交流が行えないなどのためです。

そうした傷ついた子どもたちは「いまのままでは大人になれない、誰か私をひとりの子どもとしてちゃんと見て、育て直して」と、さまざまな行動でメッセージを出しています。そして、心の奥底で信頼できる大人を捜しています。

虐待を受けた子どもの心を救うためには、保護者の代わりに、大人が1対1の関係を築き直し、愛着を結ぶ関係を作る「育て直し」が必要なことがあります。

また、大人になって行く過程に寄り添い、長期間相談に乗る人や相談先が必要です。成長にともなって深く悩むのは、たとえば、思春期、恋愛をして結婚を考えるとき、結婚して子どもをつくろうかと考えたとき、そして実際に子どもが生まれたときです。

虐待を受けた子どもを支援することとは、早期に子どもを発見して保護すること、早期に安全な生活を保障し、必要なら治療的環境に置くこと、信頼できる大人との1対1の関係を作り上げることから始まって、その子どもが大人になり、結婚、子育てまで、継続して支えるべき、ということになります。

子ども虐待とは、少子化や家族崩壊と深いところでつながっている社会問題です。虐待されている子どもを救おう、子育て中のお母さんを応援しよう、という認識は共有されつつありますが、虐待を受けた子どもが大人になり家庭を持つまでの一生を、連続して支える応援策も、国や市町村、地域社会で作って行くべきでしょう。

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虐待で家庭から保護された子どもたちは、その後どこで暮らしているのでしょうか

虐待を受けた子どもが危機的な状況にあると判断された場合には、児童福祉法によって児童相談所が一時保護し、その後、児童福祉施設に入所したり、里親さんにも委託されたりします。

入所する児童福祉施設には、児童養護施設、乳児院、児童自立支援施設、情緒障害児短期治療施設、母子生活支援施設などがあり、その子どもの年齢や状況などによって決められます。

子どもたちは各施設や里親宅など安心して生活できる場所で受け入れられ、傷ついた心と体を治すために必要な治療や支援を受けつつ、安全が守られた生活を送ります。

家庭状況や親子の状況が好転し、家庭でも子どもが安心して暮らせる状況が整ったと児童相談所が判断した時には、支援を受けながら家庭に戻り、再度一緒に暮らす事もできることがあります。

また、児童養護施設を出た後や、児童相談所や家庭裁判所からの委託や依頼、子ども本人の希望で、自立援助ホームでしばらく暮らしながら自立を目指す子どもたちもいます。

さらに、施設や里親宅を出た後、卒園者が交流し支え合うスペースや団体が全国にでき始めています。

乳児院

乳児院は、児童福祉法三十七条に定める施設で、乳児(1歳未満児)を養育しますが、必要な場合には幼児も入所させることができ、小学校入学前まで養育することができます。厚生労働省のまとめによれば、2008年10月現在、全国に121施設あり、3,124人が在籍していました。

乳児院には、母親の病気や父母の家出、次子の出産、保護者の離婚や別居、駅や病院などへの置き去り等で入所している子どもがいます。2008年の調査では、虐待を受けた子どもは32.3%いました。

乳児院には、常勤または嘱託の小児科医師や、看護師、栄養士、調理員などがいます。

児童福祉施設最低基準によって、職員の専門性を高く、従事する人数を多く設定している施設ですが、実際にはこの基準では十分ではなく、施設によっては人手不足で、枕にほ乳瓶を置いて「枕授乳」をしたり、ベビーチェアを横一列に並べて数人の乳児に離乳食を与えたりする集団養育をせざるを得ません。

重い虐待を受けた子どもの中には、食を拒否して、ミルクや離乳食を受け付けない子どももいます。ひとりひとりの乳児に、職員と1対1の関係が作れるよう、十分な愛情を注いで養育できるようにするためには、この最低基準を改正すべきであるという切実な声があるのはこのためです。

厚生労働省は2005年度から乳児院での「小規模グループケア」に予算を組み、2010年2月現在に、40施設が実施しました。一軒家や、それまであった施設本体の居室を改造して、職員が数人の子どもと寝起きして1対1の関係を築く試みが始まっています。しかし、この取り組みをするにも職員数は従来のままなので、実施施設では、さまざまな工夫をこらしています。

乳児院に入所した子どもの半数以上が両親や親族の元に帰ります。その他の子どもは、里親に委託されるか、そうでなければ、児童養護施設へ措置変更となります。

全国乳児福祉協議会

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児童養護施設

児童養護施設は、保護者のない乳児を除く18歳までの子どもが生活する施設ですが、必要がある場合には乳児も入所させることができ、場合によって20歳まで延長することができます。

厚労省のまとめでは、2008年10月現在、全国の児童養護施設数は569カ所で、30,695人が在籍していました。

入所の理由としては、父母が行方不明、父母の就労や入院、父母の死亡、放任や遺棄、虐待、養育拒否などが挙げられます。2008年の調査では、虐待を受けた子どもの入所は53.4%でした。

児童養護施設は、建物の構造が、大舎制、小舎制、グループホーム、中舎制に分かれています。大舎制は2005年では約65%を占め、大きな建物の中で、子どもたちは一定の生活プログラムのもとに暮らしています。

中舎制は、大舎制と小舎制の中間ともいえるもので、施設内を小集団で生活できるように区切って、大舎制よりは密接な養育環境を作る方式です。

小舎制は、児童養護施設の敷地内に小さな家(小舎)があり、そこで職員と子どもたち数人が一緒に暮らすシステムで、家庭で暮らした経験を持たない子どもたちには、家族のように一緒に食事を作ったり、時間をともにすることが貴重な体験になり、将来の結婚や家族構築の大切なモデルになります。

グループホームは、地域の中にある家で、職員か夫婦によって運営されています。このシステムでは、子どもは社会の中で生活でき、家庭的な環境で、様々な体験を重ねる大きな利点があります。

厚生労働省は、2014年度までに「小規模グループケア」を、全国に800か所、「地域小規模児童養護施設」を300か所の設置を予定しており、児童養護施設でも、生活を小さな単位にし、傷ついた子どもたちに対応する施策が進んでいます。「地域小規模児童養護施設」はこれまでにもあったグループホームで、本体の児童養護施設から独立して、地域にある家で定員6名の子どもたちが暮らせます。

しかし、児童養護施設もまた、絶対的な職員不足という大きな問題を抱えています。

児童養護施設では6割強の子どもが家庭に帰っていますが、その他の子どもたちには、自立の課題が重くのしかかります。

全国児童養護施設協議会

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児童自立支援施設

児童自立支援施設は、不良行為をなし、またはなすおそれのある児童、および家庭環境その他の環境上の理由により、生活指導等を要する児童を入所させ、または保護者のもとから通わせる、とする施設で、必要な指導や自立支援、退所後の相談や援助を行うとされています。

厚生労働省のまとめでは2008年10月現在は、国立56、私立2、合計58カ所の児童自立支援施設があり、1,808人が在籍していました。学校教育を受けることができ、子どもたちを施設に閉じこめるための塀はありません。

生活の場として特徴的なのは「小舎夫婦制」で、児童自立支援施設の敷地内にある一軒家に夫婦が暮らし、入所してきた子どもたちと一緒に生活できるようになっています。家庭的な環境の中で、子どもたちが自立を模索できる仕組みですが、小舎夫婦制が占める割合は1983年度には64.9%でしたが、2004年度は39.7%に減少し、交代制が増加しています。

2000年3月に国立武蔵野学院という児童自立支援施設がまとめた調査では、児童自立支援施設に入所している子どもの59.7%が虐待を受けた生育歴を持っていました。発達障害などの子どもたちも増えています。非行や問題行動に走る子どもたち、家庭で十分な養育を受けられない子どもひとりひとりの特性やニーズに適した支援をおこなうことが求められるようになっており、児童自立支援施設は転換期にさしかかっています。

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情緒障害児短期治療施設

情緒障害児短期治療施設は、軽度の情緒障害を有する児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、その情緒障害を治し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とされています。

厚生労働省のまとめでは、2008年10月末現在、全国に32カ所の情緒障害児短期治療施設があり、1,180人の子どもたちが在籍していました。

職員には精神科あるいは小児科医師、心理療法職員、児童指導員、保育士、看護師などを配置しています。職員数はおおむね児童10人につき1人を配置しており、ひとりひとりの子どものケアに重点を置いた施設です。

他の児童福祉施設と同じく、情緒障害児短期治療施設にも、虐待を受けた児童の入所が増加しています。重い虐待により心に深い傷を負った子どもたちに対応するために、被虐待児個別対応職員を配置しています。また、保護者や家族関係を改善する家族療法も実施しています。

さらに乳児院と同じく、2005年度から、小規模なグループによるケアを実施しています。

全国情緒障害児短期治療施設協議会

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母子生活支援施設

母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援することを目的とする施設とされています。以前は「母子寮」という名前でしたが1998(平成10)年の児童福祉法改正により現在の名称になりました。

配偶者のない母親などと18歳までの子どもが入所でき、必要なら20歳までここで生活でき、自立の促進のために生活を支援しています。

厚生労働省のまとめでは、2008年10月末現在、全国に合計270か所の施設があり、4,297世帯母子合計10,367人が生活していました。

入所の理由は、夫等の暴力、経済的理由、住宅事情などが挙げられます。また「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」による一時保護施設としても、母子生活支援施設が必要とされています。夫からドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)を受けている母親とその子どもを保護し、自立支援を進めるための重要な施設となっています。

全国母子生活支援施設協議会

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自立援助ホーム

自立援助ホームは、児童福祉法に定められた児童自立生活援助事業で、帰るべき家を持たない子どもたちが、働きながら生活する「家」です。中学校卒業後から高校中退の15歳から20歳くらいまでの男女が、夫婦や職員とともに1,2年暮らし、貯金し、自立していきます。運営者は、社会福祉法人、NPO法人、任意団体です。

厚生労働省のまとめでは、2008年10月現在で54ヶ所、合計230人が生活していました。厚生労働省は、2014年度までに160ヶ所の設置を目指しています。入居前に児童養護施設で暮らしていた子どもが約30%で、児童自立支援施設、情緒障害児短期治療施設、里親、少年院、家庭と続きます。就労先は、工場やスーパー、飲食店、建設関係などです。

現在の自立援助ホームの定員を見てみると、6名から20名程度で、暮らしている「家」は、一軒家であったり、アパート形式であったり、さまざまです。

自立援助ホームは、重い虐待を受けて大人になろうとしている子どもたちの自立を支える、重要な生活の場です。子どもたちは、暴力やネグレクトや、さまざまな虐待を受けていますが、中には「おはよう」「いただきます」などの基本的なあいさつを知らず、家族と一緒に食事をしたことのない子どももいます。非行や問題行動で、円満に成長できない苦しみをSOSとして出す子どももいます。

自立援助ホームの必要性は高まるばかりですが、国と地方自治体からの補助金を受け取れないホームがあり、受け取れても十分な運営ができる金額ではないため、子どもたちの生活を安定して支えるために、この制度の見直しが必要となっています。

全国自立援助ホーム協議会

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里親

里親制度は、子どもが家庭的な環境の中、地域で暮らすことができる大切な制度です。

しかし、2008年10月現在、乳児院や児童養護施設、里親の元で暮らしている子どもを見ると、里親委託は10.4%でした。実親が里親委託に同意しないことや、里親と言えば養子縁組する、というイメージが強く、「養育里親」(保護者の元に帰ることも視野に入れた家庭的なケア)が増えないことも理由です。

現在は、里親手当の充実、研修相談体制の充実、レスパイトケア(一時的に休養を取ること)の充実、専門機関からの支援、「週末里親」の体験的な活用等で、里親を支え、養育里親登録者数を2014年度までに8,000世帯、増やそうとしています。

子ども虐待を受けた子どもを育てる「専門里親」の拡充もはかられており、専門機関の支援を受けられるようにする体制も作られつつあります。厚生労働省は、2014年度までに専門里親登録者数を800世帯にまで増やす計画です。

NPO法人里親子支援のアン基金プロジェクト

財団法人全国里親会

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