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児童虐待に関連する児童福祉法および民法等の改正について

2023.01.13お知らせ

2022年に行われた児童虐待に関連する児童福祉法および民法等の改正について

 Ⅰ.児童福祉法等の改正

児童虐待相談対応件数が20万件を超え、重大な虐待事件が続発している一方で、子どもや子育て家庭めぐる状況は貧困や孤立といった厳しい環境に置かれています。こうした状況を踏まえ、子どもと子育て家庭への支援を強化し、子どもの権利の擁護を図る児童福祉施策を推進することを目的に、202268日に「児童福祉法等の一部を改正する法律」が成立しました。その主な具体的項目は以下の通りです。

 1.子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化および事業の拡充

①市区町村は、すべての妊産婦・子育て世帯・子どもの包括的な相談支援等を行う「こども家庭センター」の設置や、保育所等の身近な子育て支援の場における相談機関の整備に努める。
②訪問による家事支援、子どもの居場所づくりの支援、親子関係形成の支援等を行う事業をそれぞれ新設し、これらを含む家庭支援の事業について市区町村が必要に応じ利用勧奨・措置を実施する。
③児童発達支援センターが地域における障害児支援の中核的役割を担うことを明確にする。

 2.一時保護所および児童相談所による子どもへの処遇や支援、困難を抱える妊産婦等への支援の質の向上

①一時保護所の設備・運営基準を策定して一時保護所の環境改善を図る。
②困難を抱える妊産婦等に一時的な住居や食事提供、その後の養育等に係る情報提供等を行う事業を創設する。

 3.社会的養育経験者・障害児入所施設の入所児童等に対する自立支援の強化

①児童自立生活援助(自立援助ホーム)の年齢による一律の利用制限を弾力化する。社会的養育経験者等を通所や訪問等により支援する拠点を設置する事業を創設する。
②障害児入所施設に入所している子ども等が地域生活等へ移行する際の調整の責任主体(都道府県・政令市)を明確化し、22歳までの入所継続を可能とする。

 4.子どもの意見聴取等の仕組みの整備

児童相談所等は入所措置や一時保護等の際に、子どもの意見・意向を勘案して措置を行うため、子どもの意見聴取等の措置を講ずることとする。都道府県は子どもの意見・意向表明や権利擁護に向けた必要な環境整備を行う。

 5.一時保護開始時の判断に関する司法審査の導入

児童相談所が一時保護を開始する際に、 親権者等が同意した場合等を除き、 事前または保護開始から7日以内に裁判官に一時保護状を請求する等の手続を設ける。

 6.子ども家庭福祉の実務者の専門性の向上

児童虐待を受けた子どもの保護等の専門的な対応を要する事項について十分な知識・技術を有する者を新たに児童福祉司の任用要件に追加する。

 7.子どもをわいせつ行為から守る環境整備(性犯罪歴等の証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入に先駆けた取組強化)等

子どもにわいせつ行為を行った保育士の資格管理の厳格化のほか、児童福祉施設等の運営について、国が定める基準に従い、条例で基準を定めるべき事項に子どもの安全の確保を加えるなど所要の改正を行う。

施行期日
 202441日(ただし、5は公布後3年以内で政令で定める日、7の一部は公布後3月を経過した日、2023年4月1日または公布後2年以内で政令で定める日

【参考資料】
厚生労働省「令和4年6月に成立した改正児童福祉法について」厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/jidouhukushihou_kaisei.html

 今回の改正で、当ネットワークとしてとくに注目される点は、1②にあるように、訪問による家事支援、子どもの居場所づくりの支援などの事業を新設し、これら家庭支援の事業について市区町村が利用を勧めるよう対応するように規定されたことです。これらの事業は、民間団体が現在、実際に担っている機能を活用して子どもと子育て家庭を支援し、虐待の予防や支援につながることを目指しているといえます。

 当ネットワークでは、「一人ひとりができることをして虐待のない社会の実現」を目指しています。今回の法改正により、「子どもと子育て家庭へのハードルの低い支援」に向けた民間団体の役割が改めて確認されたといえるでしょう。

Ⅱ.民法等の改正について

 民法が改正され、懲戒権規定の削除、体罰その他子どもに有害な言動の禁止が実現しました。
2022 12 10 日に民法等の一部を改正する法律案が、参議院本会議で可決・成立し、同月16日から施行されました。

 改正前の民法822条では、 「親権を行う者は、監護および教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができる。」と、親権者には懲戒権があることが定められており、児童虐待を正当化する口実として使われているとの指摘がありました。そこで、今回の改正によりこの民法822条を削除し、親権者は必要な監護教育をすることができることを前提に(民法820条)、新たに821条で「監護教育に際し、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」として、子どもを養育するうえで親権者が守るべき原理が規定されました。この改正に伴い、児童福祉法および児童虐待防止法上の監護教育に関する規定についても同様の内容に改正されました。

 当全国ネットワークでは、セーブ・ザ・チルドレンおよび子どもすこやかサポートネットとの連名で、子どもの権利条約に基づくさらなる法改正、体罰禁止に関する大規模で継続的な啓発活動の実施、子育て支援プログラムを含めた子育て支援施策の強化、虐待・体罰等防止のための予算の確保、定期的な調査の実施を求める声明を発表しました。

https://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/4073/1671174035904.pdf

 今回の民法改正により、懲戒権規定の削除、体罰その他子どもに有害な言動の禁止が実現したことで、子ども虐待の歯止めになることが期待されます。すべての人が子どもや子育て家庭を温かい目で見守っていく世の中、子ども虐待のない社会への一歩となればと思っています。